杓子定規では行かない会社更生法

杓子定規では行かない会社更生法

会社が倒産して立ち直らせる場合、大きく分けると民事再生法と会社更生法の2つがある。一般的によく聞くのは民事再生法だが、会社更生法はあまり聞くことはない。

旧経営陣がそのまま会社に残れるのが民事再生法とすれば、会社更生法は倒産に至らしめた責任を取って、旧経営陣は全員退陣しなければならない。
従ってパチンコ業界で会社更生法が適用されるケースはほとんどない。パチンコホールは規模がどんなに大きくなろうとも大半は同族企業。自分が興した会社を追い出されることは創業者としても耐えがたい。

こういう状況で会社更生法の適用を受け、2年4カ月掛って更生手続きが完了したホール企業がある。新たなスポンサーが見つかり3月から社名も一新し、第2のスタートを切った。
そのホール企業を仮にT社としておこう。

先代が大型レジャー施設やゴルフ場に投資した大型案件がことごとくつまずき、ピーク時には1100億円の借金があった。これを2代目社長がコツコツと返済して600億円にまで減らした。
ところが、最大の債権者であった都銀が不良債権処理を早めるために、債券を外資に売却。債権回収会社がT社に乗り込んできたことから状況は一変する。

債権回収会社は社長が所有する株式を要求。これに対して2代目社長は個人破産を申請。T社としてはキャッシュフローもあるので任意整理に持っていくつもりだったが、これに待ったをかけた。店舗を切り売りして現金化したい債権回収会社は、会社更生法の申請を地裁に申し立てた。

自分たちの雇用に危機感を覚えた社員たちも会社更生法には反対して上申書を地裁に提出して抵抗したが、受け入れられるはずもなく、会社更生法が適用される。
裁判所から任命された弁護士でもある管財人が会社に乗り込んできた。旧経営陣は退陣を命じられた。
退社の準備をしていた専務取締役の目の前で、管財人がトラブルに見舞われた。機械メーカーが機械を引き上げると通告してきたのだ。あるメーカーに至っては「未収分のお金はいらない。その代わり今後一切取引しない」「○○社長のいない○○物産は、もはや○○物産ではない。助ける必要はない」と強気に出た。

パチンコホールで機械の仕入れができないとホールの立て直しなどできない。
荷物をまとめる準備をしていた専務は、管財人の目の前でメーカーの役員に電話を入れ直談判した。
「来週の入れ替えの分だけでも何とか入れて欲しい」
「専務には大変お世話になった。でも辞める人。専務が会社に残るのなら話は聞くが、これ以上口出ししないで欲しい」

そんなやりとりの後、メーカーは要求を呑んでくれた。
管財人はその場でメーカーとの交渉には欠かせない人材と認め、旧経営陣ながらメーカーとの交渉役として残ることになった。
管財人はホール企業の会社更生手続きは初めての経験だった。風俗営業は何かと許可申請書類が必要になる。その申請書類の名前が管財人では警察が受けつけず、代表者を立てるようにいわれ、書類の便宜上、代表取締役となった。

会社更生法としては異例中の異例。

残った専務のもとでホールのオペレーションが再開された。その時専務は社員に向かってこう断言した。
「絶対に新しいスポンサーを見つけてくるから信じてついてきて欲しい」会社更生法の適用は11月末。すぐに冬のボーナス時期が迫っていた。更生会社となったばかりで管財人は一律5万円の寸志に決めていたが、それを本来支給されるボーナスの半額まで出すように交渉したのも専務だった。

これで社員がバラバラになることもなく、むしろ、社員のやる気が変わってきた。本社の社員は上司の命令がなくても仕事が終わるまで深夜まで働いた。
真面目に働くホール企業の社員に、一番驚いたのが管財人だった。
次の新しいスポンサーに店を引き渡すためにも稼働アップを重視した。その結果、更生前に比べ20%ほど稼働が上がった。
従業員の要望は全員を雇用してくれるスポンサーだった。そのためにスポンサー探しは難航したが、やっと希望通りのスポンサーが決定した。2年4カ月かかった。

このスポンサーを探しだしてきたのも専務だった。

新しいスポンサーも決まり役目を終えた専務は、30年あまり世話になった会社を昨年12月25日付で退社した。

暗闇の中から一筋の光明の見えてきたパチンコ業界ではあるが、厳しい状態からの脱却については、各社各様のドラマがある。

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